2015年6月10日水曜日

伊勢神宮の式年遷宮

  
伊勢神宮が式年遷宮によって
檜の香り漂う若々しい社に生まれ変わりました。
  
この御遷宮の意義ですが、20年という期間の意味と共に
昔からいろいろな解釈がされてきました。
たとえば最近では、神宮禰宜の小堀邦夫氏が新説を述べられています。
氏は神宮司庁文化部長兼文教部長、せんぐう館館長でもありますので
伊勢神宮とはとても関係の深い方です。
   
女性セブン2013年5月23日号の記事によりますと、氏曰く
   
「遷宮には莫大な費用がかかります。
当時、遷宮のために税を課していましたが、
貨幣が流通していない時代ですから稲穀類で集めました。
この最長貯蔵年が20年と決められていました。
稲穀類を蓄積したものが税で、これを集めるために
20年に1度の大きな計画が実行されてきたのです。」
   
他の雑誌でこの説を知った時、首を傾げてしまいました。
恐らく分割での支払いだと思うので、20年である必要はないでしょう。
先入れ先出しで、毎年支払いをしてゆけばいいのですから。。。
   
さらに氏は、下記のような話もされています。
   
「また、お宮を新しくすることで、
“神様に、より強いお力を持っていただく”という意味もあります。
御祭神である天照大御神は、
八百万の神々に調和をもたらす神であり、皇祖神でもある。
古代の日本人は、神様とともに生きてきました。
天照大御神の力が強まれば、
その子孫である天皇陛下に対する国民の信頼も
大きなものになると考えられたのでしょう」
   
文面から神宮を愛する思いが伝わってくるようで
「その通り」と、つい言いたくなるところですが、この説ですと残念ながら
20年という期間の意味を説明していませんし、また
「お宮を新しくする」ことで「神様に、より強いお力を持っていただく」というのも
私には、どうにも素直に頷けません。
   
伊勢式年遷宮の重要なポイントは以下の通りです。
   
1.20年に一度行われる
2.社の位置を左又は右に移動させる
   
他に、御装束神宝もまた古例に則りそれぞれ調製されますが
こちらも大変な作業を伴います。
   
いずれにしても、大事なポイントは上記の2点なので
それについて私見を述べたいと思います。
   
まず20年の意味ですが
これは式年遷宮のルーツから考えたいと思います。
そもそも式年遷宮は、第40代天武天皇の御発意によるものです。
天武天皇は日本書紀にもあるように天文・遁甲に造詣が深かった方です。
ですので、式年遷宮の御発意についても遁甲を考慮されたのだと想います。
   
この遁甲は、奇門遁甲、八門遁甲などとも呼ばれ、日本書紀によれば
602年に百済の僧観勒が、天文や暦書と共に日本に伝えたとされています。
   
天武天皇の生年は614年~640年まで諸説ありますが
崩御は686年だと言われています。
つまり天武天皇の在位期間(673年~686年)は
遁甲伝来の時期に符合します。
このような時代背景を全く無視して穀物の最長貯蔵年数に根拠を求めるのは
私には、どうにも納得がゆきません。
   
では遁甲や暦法からどうして20年という数字が導かれるのか
それについて考えたいと思います。
   
私は40年ほど前、奇門遁甲などの中国の学問を勉強しましたが
古神道を学ぶにつれて、命理学や卜占などへの興味が薄れていったため
途中で学ぶのをやめました。
でも内容的には、大変難易度の高い学問だという印象でした。
  
話が横道にそれるので、遁甲についてはあまり触れませんが
中国の暦法の基本である60干支と、遁甲の造作法に類する考え方が
ここで大きな意味を持つことだけは押さえておく必要があります。
   
60干支は、十干十二支を組み合わせたものです。
十干とは、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10種類。
十二支とは、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の12種類。
干支は古代から、時刻や方位、角度を表す際に用いられてきました。
従って「60干支」とは、時間と空間の全てを意味するわけです。
   
この「時間と空間の全て」を対象として、左右左の祓いを行うという考え方から
60を3で割って20、つまり20年を一つの区切りとして、左右左と祓うことが
式年遷宮の20年という期間の根拠になったのではないかと考えます。
   
神道において、修祓(しゅぱつ)は基本中の基本です。
大麻(おおぬさ)を左・右・左と振ることで、罪穢れを祓う神事のことですが
この大麻と左・右・左に深い意味があります。
   
大麻とは榊の枝に麻と紙垂を付けたものですが
そのままでは祓いを行うことは出来ません。
降神之儀によって祓戸大神の御降臨を願い
その神籬となった大麻を用います。
つまり神の宿った大麻を祓いの対象に向けて左・右・左と振るわけです。
   
さて伊勢神宮ですが、外宮内宮共に正宮の社の隣には空き地があります。
20年ごとにその正宮の社を建て替えるわけですが
隣接する空き地に新しく社を建て、完成後に御神体を御遷座致します。
   
私はそれが
大麻を祓いの対象に向け左右左と振る神事に類似していると思うのです。
修祓では神の宿った大麻を使いますが
御遷宮ではそれが御神体に相当するわけです。
   
神社のお祭りでよく御神輿を振る情景を見かけますが
これは振魂の原理によるものです。
御神体を振り動かすことで、神の働きを高めるという思想です。

伊勢神宮の御遷宮でいえば、
20年に一度御神体を遷座させることが振魂となり
御祭神の御力を高めることになります。
   
結論を云えば、式年遷宮とは
祓いと振魂の原理に基づき、すべての時空間を祓い
より強い御神力を願う神事だといっていいでしょう。